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[No.16]
 デスピサロ
【登場人物】
フライヤ、ほんだら、デスピサロ、女盗賊

(急いだ方がいいわね……あの男…… 本職の盗賊ではないけれど、城の宝物庫を狙うコソ泥ってとこかしら……)
 王城がそびえ立つ浮島、その周囲に点在する藪の中に潜み、
 女盗賊は射るが如き炯眼で、即時に男――ホンダラの性質を見抜いていた。
 愛用の短剣は、大魔王に砕かれた。
 しかし――これも大魔王の意思なのであろうか――幸いな事に、彼女の盗賊道具は難を逃れていた。
 女盗賊はレミラーマをそっと唱え、城の外壁を見上げる。
 遥か上、地上から数十メートルの位置にある窓から、煌々と光が漏れていた。
(フフッ……残念だけど、お宝はアタシのものよ、『憐れなコソ泥』さん(はあと)
 自分の命が、いつ何時、誰に奪われてもおかしくない状況下にあることは理解していた。
 しかし、彼女は根っからの盗賊であり、またそれを矜持にもしていた。
 宝の臭いを感じ取り、みすみす逃すなんてことは、彼女自身が許すことができなかったのである。
 彼女はバックパックから鉤爪の付いたロープを取り出し、回転させた。
 ヒュンヒュンという風を切る音が、次第に大きくなる。

次の瞬間、最大まで遠心力が加えられた鉤爪が、窓に向かい一直線に空を舞った。
 ガキッ!
(フフ……簡単……(はあと)
女盗賊は、まるでロープの上を走るかのように、スルスルと昇っていった。
 窓の外側に張り付いた彼女の口から、思わず笑みがこぼれる。
 宝物庫のカーテンを透かして、レミラーマの反応による、眩いばかりの光が放たれている。
(ああ……眩しいわ、この光……これだけ眩しいんですもの、
 きっと目も眩むような金銀財宝が、このカーテンの向こう側にあるのね……)

窓と窓の隙間に針金のようなものを差し込み、外側から難なく鍵を開ける。そして彼女は、カーテンを開いた。
 全身の血が凍ったような気がした。耳の尖った、魔族とおぼしき銀髪の男が、彼女のすぐ目の前に立っていた。
「盗賊か。堂に入ったものだな」
(クッ……!!)
 女盗賊はすぐさま体を翻し、窓の外に飛び出した……が、無駄だった。
 すさまじい速さで、男が彼女の髪を掴み、窓の内側へと引きずり込んだからだ。
 デスピサロは、彼女を宝の山の中へと叩きつけるように投げ飛ばした。
「ガハッ!!」
 様々な金貨、銀貨、宝石、そういったモノが彼女の身体の上に降り注ぐ。
(迂闊……!まさかこんな所に、既に人が来ていたなんて……!)
 絶対に逃げられないことは、もはや分かりきっていた。
 ――戦うしかない。
 彼女は宝の山の中で、相手に悟られぬよう、猛毒の塗られたピンを取り出した。
 人間はおろか、トロルでさえその一刺しで死に至る、強力な毒。宝の山の中で、ピンを注意深く、真っ直ぐに伸ばす……。
 そして、右手でしっかりとピンを握り締めた。たった一本のピン……。これに彼女の命が懸かっていた。
 ありったけの闘志を燃やす。雄叫びを上げる。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
女盗賊は左手で、宝の山をデスピサロに向かってぶちまけた。宝物庫の中を、目映く輝く金銀財宝が舞い散る。
 それと同時に、女盗賊は壁面を蹴り、一瞬でデスピサロの背後に回り込んだ。
 そして――プスッ!
 女盗賊は、デスピサロのボンノクボに、垂直にピンを突き立てた。
「やったわッ!とったッ! 私の勝ちよオオォォォォォォォッ!!」

沈黙――。
 デスピサロが、ゆっくりと後ろを振り返る。そして、ゆっくりと彼女の首に手を伸ばした。
「!? !? !?」
「残念だったな……私に、毒など効かない」
 彼女の足が、床を離れる。それと同時に、首を締め付ける力が徐々に強くなってゆく……。
 女盗賊は必死で足掻いた。デスピサロに、力の限り蹴りを入れる。何度も……何度も……。
 全てが無駄でしかなかった。意識が遠のいていく……。



アリアハンの地に降り立ったホンダラは、ある地点を目指し、唯ヒタスラ歩いていた。
 (へへ……あんな立派なお城にゃ、お宝もたんまりあるんだろうな……)
 アリアハン城に着いたホンダラから、思わず笑みがこぼれる。やはり城内にも、街の同様、全く人が居ない。
(不思議なことだが、そんなことはどうでもいいや。やっぱり思った通りだぜ……)
 何の苦労も無く城内に侵入したホンダラは、宝の臭いを嗅ぎ付けたのか、迷うことなく宝物庫へと辿り着いた。
 重々しい扉を開く……。

宝物庫には、二人の先客が居た。
 一人は、いかにも盗みを生業としているような、細身の女。もう一人は、高貴な服を纏った、耳の尖った魔族の男。
 銀髪の男が、女盗賊の首を片手で鷲?みにし、軽々と持ち上げている。
 女の口から、かすれた声が漏れ出す……。
「た……たす……け……」
 ボキッ!!
 その音と同時に、女は首をだらんと垂らしたまま、少しも動かなくなった。
 高貴な魔族の男が、ホンダラの方を見つめ、口を開いた。
「私の名はデスピサロ……何故だろうな……人間に対する復讐は、もう終わったと自分では思っていたのだが……
 この地に来てから、再び憎しみが蘇ってな……これもあの、ゾーマとかいう奴のせいなのかも知れない……
 フフ……そんなことはどうだっていい。とにかく……人間は皆殺しだ」
 ホンダラは加速装置を使った! ホンダラは逃げ出した!

巨大な王城を背にホンダラは、ただただデスピサロから遠ざかることだけを考え、ガムシャラに走りまくった。



(旅の扉をくぐったとき、私は決心がついたのだろうか)
 フライヤの頭にあるのは、フラットレイのことだけであった。
 このゲームで生き残るのは一人だけ。 自分以外の全てが敵となる。
(ではフラットレイ様も、わたしの命を狙う敵・・・)
 ・・・!! 冗談ではない!そのようなこと。
「あの方と殺し合いなぞ、できるはずがないではないか!」
 フライヤは空に向かって叫んだ。ありったけの憎しみを込めて。
「なんと残酷な運命なのじゃ・・・」
 目の前にあるのは絶望だけであった。
 そんなフライヤの心情をまるで無視するかのように、一人の男がドタドタと慌しく駆け込んできた。
 ハッと我に帰り、身構える。
「何者じゃ、そこで止まれ!」
 フライヤが警告すると、男は引きつった声を出して倒れこんだ。

(早くも私の命を狙う者が.・・・?)
 用心しながら男に近いていく。そしてあと2、3歩という距離まで接近し、顔を覗き込もうとしたその時
 男は突然頭を上げ、フライヤに飛びかかった。
「み、み、見たんだよ!!」
「何をする、離さんか!」
 フライヤは突き飛ばそうとしたが、男の手はフライヤの服の裾を握って離さない。
「いいかげんにせんか、こやつ!」
 フライヤは足を絡めて男の体勢を崩すと、おもいっきり投げ飛ばした。
「うげっ!」
 男は背中を打ち呻き声を上げていたが、それが収まるとゆっくりと体を起こし、引きつった声で喋り出した。
「デ、デデ、デス・・・・・」
「・・・・・・・・?」
「デスピサロに気をつけるんだ!」
 男はそれだけ言うと、近くに見える橋へ向かって走り去っていった。

フライヤは何やらわけがわからなかったが、男の去り際の言葉は妙に気になった。
「デスピサロ・・・・?」
 初めて聞く名だったが、なぜかその名前の響きに不穏な感覚を覚えたフライヤであった。



ホンダラを少しばかり追いかけたものの、結局逃げ切られてしまったデスピサロは、再び宝物庫に戻ってきていた。
 女盗賊の亡骸から、アイテムをルートする。彼女のアイテムは『狼煙』だった。
「使い道の無い物だが……一応、持ってゆくとするか」
 足元に横たわる女盗賊の亡骸を、デスピサロは財宝の山の方へ蹴飛ばした。
 ぶつかった衝撃で棚からザラザラと零れ落ちる財宝が、彼女の亡骸を埋葬してゆく。スグに彼女の身体は見えなくなった。
「盗賊としては……この上無い墓標だな……」
 女盗賊の墓を一瞥し、デスピサロは再び書庫へと戻って行った。
 重々しい音を立て、扉が閉まる。それ以後、アリアハン宝物庫の扉は、永遠に開かれることはなかった。
【フライヤ 所持武器:エストック 現在位置:アリアハン北西の橋近辺
 行動方針:とりあえずフラットレイとは会わず、しかし最終的には結論を出す】
【ホンダラ 所持武器:加速装置 現在位置:アリアハン北西の橋
 行動方針:デスピサロの恐ろしさを触れ回り、あとはひたすら逃げる】

【デスピサロ 所持武器:正義のそろばん、狼煙(のろし)
 現在位置:アリアハン城宝物庫や書庫等をウロウロ 行動方針:進化の秘法を探す&見つけた人間は排除】

【女盗賊 死亡】
【残り107人】

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