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[No.30]
 生か死か
【登場人物】
ジタン、黒のワルツ3号

盗賊の本分は盗むこと。
 だが、誰一人傷つけずに盗みを成功させる、という不文律が存在するのもまた盗賊である。
 盗みのためならナイフで脅すも人を殺すもお構いなし、などという輩はただの強盗だ。俺たち盗賊はそんなんじゃない。
 華があるんだよ。
 犯行予告通り、パッとスマートに獲物を盗ってみせる。誰にも真似できっこない芸当だね。
 そんな想いがあるから、ジタンは盗賊である自分に誇りが持てた。
 仕事をしている時の俺の顔はきっと輝いているんだと。
 だが、今、ジタンが対峙している相手は、それをはっきり否定するのだ。
 その相手とは、意思を持った人形、黒のワルツ3号。

黒魔道士と呼べる風貌だが、ジタンのよく知るビビとはまるで違う、邪悪そのものの存在。
 盗賊の誇りを言うジタンに、黒ワルツはこう吐き捨てたのだ。
「貴様はコソ泥とどこが違うんだ?」
 その言葉に、ジタンは心臓が凍るような衝撃を受けた。そして不覚を取った。
 動揺するジタンのスキを突いて、黒ワルツは容赦なく黒魔法を浴びせたのだ。
 全身を電撃で撃たれたジタンは、立っていられず仰向けに倒れ込んだ。
 黒ワルツは笑い声を上げながら近づいてきた。 逃げようとしたが体がまるで動かない。
「誰も傷つけたくないだと?虫唾が走るわ!」
(傷つけないのは、誇りがあるから・・・)
 黒ワルツはジタンの腹部をおもいっきり蹴飛ばした。
「ぐっ・・・!」
 必死で痛みを堪えるジタンを黒ワルツは更に責め続ける。
「何が盗賊だ。何が誇りだ。物をかすめ盗るしか能がない、ただのコソ泥にすぎぬわ!」
(コソ泥じゃない・・・!俺は・・・そんなんじゃない・・・)
 今度は顔を拳で殴りつけた。ジタンの顔に血がにじむ。
「自分を飾る言葉が何の役に立つ!、ここでは、殺しができぬ奴はただの負け犬なのだ!!」
(・・・・・・・・・・・・・・・!!!)
・・・そして、問い掛けてくる。
「貴様に人が殺せるか?」

だがジタンは答えない。
「もう一度聞く。貴様に人が殺せるか?」
 それでも何も答えないジタンを、黒ワルツ3号は嘲け笑った。その顔は、もはや悪魔としか思えないほど醜く歪んでいた。
「くっくっく・・・できまい。貴様はしょせん臆病者だ。だが私は違うぞ!」
 黒ワルツは舞い上がると急降下し、ジタンの胸に膝を叩き下とした。
「ぐっ、ぐああああぁぁっ!!」
 肋骨が数本は折れただろう。ジタンは血を吐いて転げまわった。
 黒ワルツは、激痛で胸を押さえるジタンを尻目に、薄ら笑いを浮かべている。
「これで少しは考え直したのではないか?しかしもう遅いな。貴様はもうすぐ死ぬ。
 くくく・・・寂しくはないぞ。貴様の仲間たちもいずれ殺してやるさ。せいぜいあの世で仲良くするんだな」
(ガーネット・・・・みんな・・・・・)
 黒ワルツはナイフを取り出すと、ジタンの髪を掴み胸に狙いを定めた。
「さらばだ、小僧」
 勝ち誇った表情で、黒ワルツはジタンの胸にナイフを突き刺した・・・

かに見えた。
 しかし、ジタンはナイフが胸を貫く直前、身を反らせてかわしていたのだ。
「なっ・・・」
 黒ワルツは驚き、もう一度胸を狙うためナイフを持つ腕を引き戻そうとしたが、ジタンが脇で黒ワルツの腕を
 がっしりと挟み込んだため、それはできなかった。
「ど、どこにそんな力が・・・!?」
 黒ワルツはもう片方の腕で殴りかかろうとしたが、それより速くジタンの右腕が伸び、それも制止された。
「俺にも・・・殺しができるさ」
 黒ワルツは驚愕の表情を浮かべた。ジタンの目はギラギラと燃え上がっていた。
「大事な人を守るためなら、何だってやってやる!!」
 ジタンは全身の力を振り絞り、脇で挟んでいた腕をおもいっきり締め上げた。
 黒ワルツは苦痛の声を上げて、手に持っていたナイフを落とした。
 そして、ひるんだ黒ワルツの左胸に、ジタンはその拾いあげたナイフを深く突き刺した。
「こんな・・・バカな・・・」
 黒ワルツは自分が死ぬなど信じられないと言った顔つきで、死んでいった。
「大事な人のためなら・・・・・ガーネット・・」
 ジタンは意識が遠ざかるのを感じ、そして、気を失った。
【ジタン 瀕死 所持武器:? 現在位置:レーベ北の海岸付近 行動方針:傷の治療】

【黒のワルツ3号  死亡  所持武器:盗賊のナイフ】
【残り103人】

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