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[No.36]
 天涯孤独の男
【登場人物】
バッツ

ゼルとアリーナ、そしてサラマンダーの死闘の後、アリアハン城南の森は閑散としていた。
 そこでぼさぼさ頭の1人の青年、バッツはぼんやりと空を見上げていた。
 木々が光りを遮っており、空など見えなかったが、ただ、ぼんやりと。
 近くの戦闘の痕跡は、このゲームが始まっているのだということを彼にひしひしと伝えていた。
「誰だかわかんないけど・・・少なくとももう二人が死んだわけか・・・。
 まさか二人で心中したわけじゃあるまいし、こいつらを殺した奴がどっかにいるんだな・・・」
 しかし、中央にあるショートソードを見るに、殺した者がそれほど冷酷な奴とも思えない。
 となると、自衛の末にこうなったのだろうか?
 なんにせよ、もはやみんなで仲良く、というわけにはいかないということの証であることは確かだ。
(いや・・・そんなことはどうでもいい・・・)
 バッツには二人、生存を気にかけている人がいた。
 レナ、ファリスの姉妹である。

そして目の前にある二つの山・・・まさかとは思うが、最悪の事態が彼の脳裏をよぎっていた。
 確認するには躊躇われたが、しかしずっとここにいるわけにもいかない。
 バッツは意を決し、それが死者への冒涜的な行為であると自覚しながら、山を掘り返した。
―――よかった・・・
 些か不謹慎なことではあったが、彼は安堵した。

暫く黙祷をしたあと、二つの亡骸をもとに戻すと、バッツは出発のために持ち物を改めて確認した。
 支給された武器である長身の剣は、まったくといっていいほど光沢を失ったおり、
 一見とてもではないが使えそうには見えなかった。
 しかし、バッツはこの剣がなんなのか知っていた。
 ブレイブブレイド――持ち主の勇気に呼応して強くなる剣だ。
「はは・・・そうだな。俺は今、無茶苦茶怖いよ。
 あいつらが生きているかわからないし、俺だっていつ死ぬかもわからない。俺が死んだら―――」
 ふとそこで言葉が詰まった。

自分が死んで悲しむのは誰だろう。
 レナもファリスも、このゲームに参加している限り、生き残る可能性は限りなく少ない。両親は既に他界している。
 かつての仲間であるクルルもまだ14歳だし、日常の多忙からいずれ忘れていくに違いない。
 故郷の人たちも、バッツがいなくなってときどき思い出す者があっても、
 それは昔の思い出としてそれ以上になることはないだろう。
 ボコは―――おいおい、チョコボだ・・・それにあいつには奥さんがいる・・・。
(なんだ・・・結局、俺が死んで困る奴は、誰もいないんじゃないか・・・)
 溜息をついたが、その瞳に悲しみの表情は無かった。
 もともと彼は天涯孤独の身であったのだから、今さら悲しむ必要などなかったかもしれない。

しかし、できるだけのことはしたい。
 自分は助からなくても、王族でこれからの世界を担っていくレナやファリスは助かるべきだ――
 そう考え、彼は二人の捜索を再開する。
 ナマクラ刀も、魔法剣にすればちょっとはマシになるだろうと、バッツは魔法剣士にジョブチェンジし、
 念のためアビリティに白魔法をつけた。

「さあて・・・いくか」
 その場をあとにするバッツの持つ剣は、相変わらず光を失っていた。
【バッツ:生存。魔法剣士 白魔法 所持武器:ブレイブブレイド 現在位置:アリアハン城南の森から北東
 行動方針:非好戦的だが、自衛はする。レナとファリスを探す】

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