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[No.2]
 Heart of Darkness
【登場人物】
リンダ、レノ、ガラフ

「まったく、参ってしまったぞい」
ガラフは夜道をとぼとぼと歩く、バックの中の支給品?には逃げられてしまうし、
その上、貴重な水筒の水までもこぼしてしまった。
武器はなくともなんとかなる、だが水と食料がなければ長くは持たない。

あれから気がつくとそこは小さな祠の中、そこで彼を含む20人ほどの集団は、
そこにいた兵士に頭ごなしに説明を受け、荷物を持たされ強引に一人ずつ出立させられたのだ。
そのやり口にははらわたが煮え繰り返る思いだったが、今はとりあえずこの場を凌ぐことが肝要だ。
時がたてばそのうち機会がめぐってくるはず。

ともかく、水源を求めてさまようガラフだったが、自分の今歩いている場所が畑であることに気がつく
「ふむ」
ガラフは慎重に周囲を見渡す、ここが畑ならばかならず井戸か農業用水があるはずだ。
案の定、そこから少し離れたあぜ道に井戸のポンプを見つける。

さっそくポンプを押して、水をくみ出そうとしたガラフだったが、その手が不意に止まる。
自分の目の前にある闇をじっと睨みつけるガラフ、そこだけ周囲の背景と比べて違和感があるように思えたのだ。
ガラフの眼光が鋭くなる、瞳に宿る光は暁の4戦士とたたえられた若き頃と比べても見劣りはしない。
「隠れているのならば無駄じゃぞ、頭隠してなんとやら、だ」
返事はない、しかし違和感は疑い様が無い、ガラフは口の中で呪文を詠唱する、
軽く火あぶりにでもすれば慌てて姿を見せるだろう、しかし、その時であった。

自分の背後から匂う、異様な香りにガラフの集中が、一瞬途切れる。
慌てて振り向いたガラフだったが、遅い、その瞬間、彼の身体は炎に包まれていた。
その背後からの予測外の攻撃にガラフは成す術もなく、炎は容赦なく彼の身体を焼き尽くしていく。
(そうか…フェイクじゃったか、わしとしたことが…)

わざと目立つように出来の悪い罠を仕掛け、それに気を取られている影には本物の罠がある、
思えば常套手段だ。
(バッツよ…レナよ、ファリスよ…それからクルル、わしはここまでじゃ。じゃがおぬしらは必ず…)
最後の思考の猶予が与えられただけ彼はましだったのかもしれない、
ともかくガラフは無残な消し炭に成り果て、死んだ。

ガラフが完全に死んだのを確認したのだろうか、空間が割れて一人の少女、ムーンブルク王女リンダが姿を現す。
マヌーサの呪文を応用して闇に潜んでいたのだ。
わざと出来の悪い幻で相手の注意を引き、そしてそれに気を取られた相手を背後から襲う。
そう何回も使える手ではないが、まずは成功といったところか。
そしてその手には、彼女の支給品である火炎放射器のノズルが握られていた。

ガラフの無残な亡骸を見つめるリンダの瞳から涙がこぼれる。
「あなたに恨みはありません…ですけどムーンブルクのためなんです」
あの日…ムーンブルクが魔物たちの襲撃を受けた日のことを彼女は思い出す。
自慢の軍は奇襲に成す術もなく壊滅、炎に包まれる城の中をわずかな生き残りと共に、
ようやく辿りついた抜け道、しかし。

『いけません!皆さん…私と一緒に逃げてください』
『何を言われる、ここで我らことごとく討死しようとも、姫の命を救えるのならば
 それは我らの勝利にござる』
『王も王妃も無残に討死された今、姫様だけが唯一の希望!どうかご無事で…御免!』
そう言うなり団長はリンダを抜け穴の中へと放り投げる。
『姫様が無事逃げられるまで時間を稼ぐ!親衛騎士団ここが命の捨て時ぞ!』
間髪入れずに聞こえる戦いの、いや虐殺の音に耳を塞いで彼女は走る。
そうだ、必ず生きて帰らねばならない、自分が戻らなければムーンブルク正統の血は絶えてしまう
それだけではない。

民たちは現在、唯一戦火を免れたムーンぺタの街で、乏しい物資を分け合い、必死で耐えている。
しかしそれも限界だ、表面にこそ現れていないが、ムーンブルクからの難民と本来の住民たちの間で
緊張が高まりつつあることも彼女は察していた。
今はまだいい、しかし時が来れば間違いなく内乱に発展するだろう、
そうなれば折角手に入れた平和も、また遠のく。

『姫様ご健在なら、ムーンブルクもきっと再建できましょう、その日を信じております』
そう言って苦しい生活の中、見せてくれた人々の笑顔。
生きねばならない…自分を信じて耐えている人々のため、希望を託して死んでいった家臣、
そして一族のためにも、例え、この身体ことごとく血に染まろうとも。
老人のため、しばし黙祷するリンダ。
そしてその背後では……。

「女は怖いな、と」
物陰に身を潜めながらも、いつものごとく軽口を叩くレノの姿があった。
両目に装着した多目的ゴーグルがなければ、火ダルマになっていたのは自分だっただろう、
そう思うと少し冷や汗ものだったが。
「さて、どうするか、と」
彼はとりあえずは戦うつもりだった、が、自分の手を汚さずにいられればそれに越した事はない。
目の前の少女が自分の分まで殺してくれるなら手間が省けるし、もし社長たちが彼女の手にかかりそうなら、
助けてやって恩を売るのも、逆に見殺しにするのも可能だ。
つまりこのまま彼女の背中に貼りついているのが、1番楽だと思えた。
いずれにせよ、自分が手を下すのは最良のタイミングでなければならないし、そうでありたい。
「無駄な殺しはするもんじゃない、と」

一方のリンダは怪訝な顔で周囲を見まわす、と、前方の草むらがかさかさと揺れている。
リンダは首をかしげつつ、闇の中に目を凝らす、彼女の瞳がとらえたもの、それは黒い犬の姿。
そう、ガラフの支給品であった黒い猟犬、インターセプターだった。

「ひっ!…いぬっ、いぬっ、いぬう…」
その途端、リンダの顔から血の色が引いていき、蒼白になっていく、記憶が甦る…心の奥底に封印した地獄が…。
そう、抜け道をあの時彼女は必死で走っていた、しかし彼女の行く手はすでに塞がれていたのだ。
『おや…これはこれは姫さま、このような場所で会う事になろうとは、くくく』
目の前に立ちはだかる邪教の男がその後、自分に何をしたのか、そしてそれから彼女の身に振りかかった
屈辱の数々……、それらが次々とフラッシュバックで展開していく。
そう、雨が降りしきるあの夜、私は……。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
リンダは、獣のような叫びを上げると、あさっての方向へ一目散に逃げていった。
悪夢を振り払うように頭をぶんぶんと振りまわしながら。

そしてレノも、素早く手もとのメモ用紙に(犬が苦手)と書きこみ、
「さて、漁夫の利を得るとしましょうか、と」
まるで山猫を思わせる軽やかな身のこなしで彼女の後を追うのであった。
【リンダ:所持アイテム:火炎放射器 現在位置:E-12】
第一行動方針:生き残る

【レノ:所持アイテム:多目的ゴーグル 現在位置:E-12】
第一行動方針:リンダを追尾する

【ガラフ:死亡】
(残り77人)

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