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[No.34]
 ギャンブラーの絶望と愉悦
【登場人物】
セッツァー、ファリス

「賭け事が好きなタイプだろ、お嬢さん?」

 その呼びかけは、唐突に、背後から。
 俺は正直、とても驚いた。
 気配の無いところから、突然声をかけられたからだけじゃない。
 初見で性別を見破られたことがいままで無かったからさ。

「まあ、賭け事は人を見る目を養うからな」

 こいつ…… 俺の心を読んだのか?
 なんて目で俺を見やがるんだ。
 光が無い。
 感情が見えない。
 まるで底なし井戸を覗き込んだみたいな怖さが……

 ―――怖い?
 額に滲んだ脂汗をふき取り、俺は自分に言い聞かせる。
 ダメだダメだ。ダメだぜファリス、弱気はよ。
 飲まれるな、舐められたら負けだ。
 このおっさんは、勘が鋭くてポーカーフェイス。ただそれだけじゃねえか。
 俺はありったけの不快感と怒りを込めてヤツを睨みつける。

「ほぅ……強いな。これは楽しみだ」
「何が楽しみだっていうんだ、アンタ。俺と闘る気なのか?」

 俺は配布武器の盲目の弓を構え、牽制。距離を詰めさせない。
 ヤツは肩をすくめ、両脇を左右に広げる。やれやれ、とでも言いたげに。

「おっと、そんなに警戒しないでくれないか?
 俺は、お嬢さんと大博打を張りたくて、声をかけただけだ。
 襲うつもりだったら声をかけるまでも無く撃ち殺しているさ。懐の銃で、な」

ヤツはコートの胸を前を広げ、その銃を見せた。
 俺を顎で促し、その銃を取ってもいいのだぞとアピールする。
 いやな余裕を見せてくれるぜ。
 この態度、俺を信じてるってんじゃねえ。俺の思考と行動などお見通しって肝だ。
 
「……何を賭けるってんだ。武器か?食料か? それとも勝ったほうに従えって話か?」
「そんな詰まらないものを張ってどうする? 張るのは命さ」

 ヤツの手がゆっくりと銃に伸びて、銃口を自分に向けたまま持ち上げる。
 そして、自分の側頭部に当てる向け、「ぱん」と呟いた。
 なるほど。ロシアンルーレットをやらないか、ってわけか。

「俺は根っからのギャンブラーでね。
 緊張感の中に身を置かないと生を実感出来ない、難儀な人種さ。
 なのに―――最近は食傷気味だ。倦んでいる。
 どんなギャンブルにも心ときめかず、満たされない。
 いっそ死んでしまおうか。そう思っていた―――だがな」
 
 ヤツは続ける。
 深く、低く、甘く―――ひどく蟲惑的な声で。
 ダークグレーの瞳に何の感情も乗せないまま、俺の瞳を見つめたまま。
 心が裸にされた気分だ。気色悪ィ。
 俺は睨み返す。
 ……本当にそうか? 目が反らせないだけなんじゃないか?

「この島に連行されてわかったんだ。死への恐怖こそが最大の刺激だと。
 生きたい。死にたくない。この欲求に勝る衝動があるか?
 それを、もて遊ぶんだ。
 生き物としての根源的な欲求を軽視し、冒涜し、貶める。
 どうだ、ギャンブラー冥利に尽きる賭けだろう?」

「そういえばお互い、名乗りがまだだったな。俺はセッツァー。おまえは?」
「ファリス」
「違う。偽名じゃない。男の名前じゃない。
 お前の本当の名前を聞いているんだ、お嬢さん」
「……ファリス、だ」
「なるほど。おまえの大事な仲間は、そちらの名前で呼ぶわけか」

 男―――セッツァーは肩をすくめると拳銃を手に取り、ホルスターを開ける。
 弾丸は既に一発だけしか入れていなかった。準備周到なことだ。
 指の腹でホルスターを回し……かちゃり。回転が止まる前にそれを閉じた。

「さあファリス、賭けに乗るなら銃を手に取れ。乗らないならこのまま立ち去れ」
「いちおう選択権はあったわけだ」
「当たり前だ。同意無き賭けなど美学にもとる。
 が、まあ―――俺は既に『おまえが賭けに乗る』方にBETしているがな」

 ―――認めよう。俺はこいつに飲まれている。俺はこいつに読み切られている。
 既に九分九厘、賭けに負けている。
 だが、このままコイツの思うツボってのは気にいらねぇ。
 俺にだって海賊頭の意地がある。舐められっぱなしじゃ商売上がったりだ。

 知恵を絞れ、ファリス。
 俺はこの銃をどうするべきだ?
【セッツァー 所持武器:S&W M29(残弾6発) 現在位置:U-11 平地
 行動方針:命を張ったギャンブルを愉しむ 出発地点:東 】
【ファリス(狩人・非マスター) 所持武器:盲目の弓 現在位置:U-11 平地
 行動方針:? 出発地点:東 】

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