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[No.38]
 勇者で正義で伝説なので。
【登場人物】
【アルス】
ぼくは勇者だよ。勇者アルス。ほら、伝説まで上り詰めた真の勇者。別名ロト。
そのぼくが、君の剣をくれっていってるんだよ。
それを拒否するって、どういうこと?
普通、感激してひれ伏して、この剣をお使いくださいって、
君のほうからお願いするくらいだろう?
その剣は『邪悪』の殲滅に役立つんだ。
ぼくは君なんかより千倍も万倍も億倍も有効にその剣を使いこなして
『邪悪』の親玉を滅ぼすんだから。それが『正義』の勤めだし。

首輪はどうするのかって?
あはははは、君は心配性だね。
そういう試練は、目的に向かって突き進んでくうちに、どうにかなるもんだよ。
いや、どうにかならなくちゃいけない。というか、どうにかならないわけが無いんだ。
だって、ぼくは『正義』の勇者だから、『邪悪』に負けるわけがないだろ。
そういうことだからさ、安心してぼくにその剣を託して。

だ〜か〜ら〜。なんでそんな頑なに拒むのさ。
ぼくの役に立てる絶好のチャンスなのに。家に帰ったら自慢でき……

痛っっ!!!

な、なんで君はこんなことするんだ!!
勇者アルスの足を踏みにじるなんて、例え王様でもやらないぞ!!
それにその汚い言葉も、ぼくにかけていい言葉じゃないっ!!
……そうか。やっとわかったぞ。お前は『邪悪』だな?
このゲームの参加者はみんな『正義』だと思ってたけど、そうじゃないってことか。
だったら話は簡単だね。やっつけて、奪う。
いくぞ〜〜……

ラ イ デ イ ン ! ! !

【リノア】
いきなり何? この剣が欲しいって?
ゴメン、それはちょっと出来ない相談だよ。
これ、スコールに渡そうって決めてるから。、
あ、スコールっていうのはわたしのステキなハンサムさんなんだけど。

―――勇者?
ああ、そうなんだ。良くわかんないけど、ロトなんだ。ふーん。
でもゴメン。これはあげらんない。
ひれ伏す? 
あーそー。偉い人なんだね、君の地域では。
いや、そんな『正義』『邪悪』て連呼されても。そりゃ大事かもだけど。
事態はそんなに単純じゃないわけで。
そう、たとえば―――首輪をどうするの? とか。

おいおい、ここ笑うトコじゃないよ。
……意気込みは買うけど。ちょっと夢、見すぎかなーって。
ダメ。 話聞いて益々渡す気無くなった。

いいかげんしつこいぞ、アルスくん!!
わたしはね、君の役に立ちたいなんて、これっぽっちも思ってないの!!
こら、勝手に剣に手を伸ばすな!! 近寄るなっ!!
はい、剣はバッグの中にしまって…… これで鑑賞タイムお仕舞っ!!

「何で」って…… 君、そんなこともわかんないの?
じゃあ物分りの悪いアルス君に、わたしが懇切丁寧に解説してあげる。
それはね、きみが無神経で傲慢で傲慢で自分勝手で勘違いしてて人の話を聞かないからっ!!

邪悪……? それ、そっくりそのままきみに返す。
じゃあね、さよならっ。 
わたしの目の届かないところで、好きに正義やってなさ……

って、ウソっ!?

「ラ イ デ イ ン ! ! !」
「って、ウソっ!?」

アルスの叫びと共に微妙な空気の振動を感じたリノアはすぐさま側転。
直後、雷撃が炸裂した。衝撃。
「―――つ」
サンダーとは似て非なる、不自然な神聖さの感じられる閃光。
リノアは直撃こそ逃れたものの、閃光に目を焼かれ、盲目状態となる。

「マホトーン」
間髪いれず呪文を畳み掛けるながら、リノアに詰め寄るアルス。
武器を持たない彼は体術による打撃をかける。
体勢定かならないリノアは懸命に回避を試みるが、盲目が祟り連打を浴びてしまう。

完全に不意を恰好となったリノアは、盲目状態の回復を急務と判断。
白魔法エスナを選択するが、彼女は既にマホトーン影響下にあった。回復不能。
動揺。
その間もアルスのラッシュは止まない。
武器を持たない彼の攻撃でも、防御力の薄いリノアの体力は徐々に削られてゆく。

殴打の雨を浴びながら、少しずつ回復してきた視力を感じつつ、リノアは思う。
―――逃げるしかない。

リノアはルーンブレイドの入ったバッグパックを放り投げる。
一瞬、アルスの気が逸れた。
その隙を突いて、彼女が立ち上がる。
バックステップ。バックステップ。そのまま背を向け、ダッシュ。

「イオラ」

リノアの背後からアルスの声が響く。
言葉の意味はわからないが、直感で攻撃魔法と判断した彼女は、
足の回転を止めぬまま体を緊張させ、衝撃に備えた。
しかし―――その爆裂の呪文はリノア本人を狙ったものではなかった。

ぼん。ぼん。ぼん。ぼん。ぼん。
リノアの前方に生えていた木々それぞれの根元近くに連続して小爆発。
木は重い音を立て重なり倒れ落ち、リノアに襲い掛かる。
彼女は未だよく見えない目で回避を試みる。

一本目、上手く身を躱す。
二本目、見当違いの方向へ倒れる。
三本目、四本目に重なるようにして傾き、
四本目、枝に肩が接触、バランスを崩し、
五本目、ついにその凶悪な幹がリノアの足を押し潰した。

「ぐぎ……」
あまりの衝撃に獣じみた唸りを上げるリノア。
筆舌に尽くしがたい凄惨な顔で悶絶する。

そこに、アルスが来た。
リノアの放り投げたバッグから回収した、ルーンブレイドを提げて。

「滅びろ、邪悪」
「……よくいうよ」

ルーンブレイドが黄銅色の軌跡を描いて振り下ろされた。
【男勇者アルス 所持アイテム:炎のマント ルーンブレイド 現在位置:Q-11】
第一行動方針:邪悪の殲滅(主催者打倒) ※彼に同調しない者は全て『邪悪』とみなす。
ステータス:MP、少量減少

【リノア 死亡】
(残り69人)

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