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[No.44]
 騎士との遭遇
【登場人物】
テリー、ピエール

誰かの足音が聞こえる。他に音はない。静寂の夜である。
相手はこちらに気付いている様子はなく、泥を跳ね上げる湿った音が連続している。
自分の位置を気取られることなど忘れているかのよう。
テリーは茂みの中にしゃがんで身を隠しながら、標的を捉えた。
草と草の間から垣間見えてきたのは、意外な姿だった。
ピエール。この名がすぐ頭の中に浮かんだ。
馬車仲間だったスライムナイトがすぐ目の前にいた。

いや、違う
テリーは瞬時に悟った。
こいつはピエールではないと。いつも生真面目で小姑のように何かと口やかましく説教
をくれていた――魔物のくせに――自分が知るあのピエール、ではないとわかった。
野性味が残っている、人間に飼い慣らされたのではない、魔族の騎士としてのプライド
をこのスライムナイトから感じた。

テリーは勢いよく草むらから飛び出し、相手の行く手を遮った。
仰天しながらスライムナイトは調子の外れた声を上げる。
「ぬっ、おのれ」
魔物は慌てながら右腕を前に突き出すと
「敵めっ」
次の瞬間、その右腕が火を吹いた。

煤けた臭いが鼻につく。スライムナイトの手から、からからと音を立てて何かがこぼれ落ちる。
足元をうかがうと地面が焼け焦げたように変色している。
手から発射したものが地面にめりこんだ、とわかる。

テリーは立ち位置を変えず、ずっと直立したままの体勢でいた。
魔物は見るからに焦りだし、後退しながら右腕を叱咤するように叩く。
今使ったのが飛び道具なのはわかった。狙いが定まってなければ何ら影響がないこともわかった。
注意深く見ていれば、飛んでくる弾を見切ることもできそうだ。
どのくらい威力があるかは、自分の体で試すわけにもいかないが。

「先に手を出したんだから文句言うなよ」
テリーはじりじりとスライムナイトに近づいていく。
何かありげにザックの中に手をつっこみ居合のような体勢で威嚇しながら、相手が音を上げるのを待つ。

テリーは相手にわかるように、わざとあからさまな殺気を全身から放っていた。
知性ある魔物は気圧され、兜の下の素顔が蒼白になっていると想像がつく。
「武器をおいて逃げるか、ここで死ぬか、好きなほうを選びな」
騎士であることにこだわるとはいえ、所詮は魔物、死を恐れる本能はあるはずだ。
テリーはまた一歩、踏み込んだ。
これでザックの中身に武器がないことを知られたら、また勢い付かれるかもしれないと用心はしたが
それは必要なかった。

魔物は両手を上げた。
「悔しいが、貴方には勝てそうにない。ここは譲ります」
案外聞き分けがいいことに気を良くすると、テリーはザックから手を出し殺気を消した。
すると魔物は慇懃な古式めいた礼をした。
「彼のお方を除けば、どんな人間にも絶対に負けぬと自負しておりましたが、
 その自信が微塵になって吹き飛びました。……貴方は強い。人間とは思えない」

テリーは身動きせず聞き入っていたところ、魔物は探るように姿勢を傾けた。
「それとも、既に人ではないのでしょうか」
たぶん、テリーはそのとき険しい表情を見せたのだろう。

「余計なことはいい。武器を置いてきな」
「で、ではここに」
スライムナイトは足元に飛び道具を置いて、こちらに見えるように草をのけた。
それからやや震えているような視線をテリーに向け、これでいいでしょうかと言った。

「待て、他にはないのか、それは」
テリーはスライムナイトが腰に下げているザックを指差した。
「このザックに入っているのは食料だけです。
 私もまだ出始めたばかりで、とくに手をつけていません。これもお譲りしましょうか」

そういやそうだったな。
テリーは舌打ちした。飛び道具に頼らなくても、代わりの技はいくらでもある。
欲しい武器は剣なのだ。
しかしこの魔物がが嘘をついているようには見えないし、無いものねだりしても仕方がない。
「いや、いい。とっとと行きな」
テリーが追っ払う仕草を見せると、スライムナイトは大袈裟な会釈をして背を向けた。
そして一言二言足元のスライムに声をかけると、飛び跳ねながら遠くに消えていった。

テリーは残された武器を拾いあげた。
本来なら入手する気はなかった物だが、ここに残して誰かに使われるのもおもしろくない。
まあ、位置を知らせるぐらいには使ってもいいだろうと思った。
ザックの中にそれをしまい込むと、また移動を開始した。
【テリー 現在位置 Q−6
 所持品:山彦の盾・コルトパイソン 行動目的:支給品奪取】
【ピエール 現在位置 Q−6 
所持品;なし 行動目的 状況把握】
ピエールは北スタート

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