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[No.46]
 星降る丘で――
【登場人物】
パパス、スコール

「(……今の俺になにが出来る?)」
「(武器の無い戦士は……牙の無い狼と同じ……)」
「(もちろん俺に、ゲームに乗るつもりなどないが……)」
「(人を守るにも……主催者を叩くにも……武器は必要で……)」
「(だけど武器を手に入れるためには……他の参加者から手に入れる必要があり……)」
「(……彼らとて必死だろうから、気前良く渡してくれるとも思えない……)」
「(奪い合いになる……必然、殺し合いに……)」

全く嫌な具合に良く出来たゲームだと、スコールはため息をつく。
ここは、J−06地点、星降る丘。
空は晴れ渡り、宝石箱のように星々が煌いているが、
スコールの暗鬱な心は見事なまでに曇天だった。
元々自分の殻に閉じこもりがちな彼ではあったが、
あまりの八方塞がりな状況に、思考の無限ループに陥っていたのだ。

ざしゅ、ざしゅ、ざしゅ。そんな彼の耳に足音が届いた。
存在を隠さない、力強く確かな足取り。
それだけで威風堂々たる容貌を感じさせる。
一瞬、逃げの体勢に入ったスコールだが、思い直し、足音の主を待ち構えた。

「ここの星空は絶景だな」

果たしてやって来たのは、グランバニアの前王、パパスだった。

「先ずは挨拶が礼儀だな。私はパパス。サンタローズのしがない村人だ」
「……スコール……です。
 (そんなわけがない……この人は、もっと凄い人のはずだ……)」

この言葉に関してはぶっきらぼうな若者が、思わず語尾に
「です」をつけてしまうほどの風格が、パパスにはあった。
パパスは太く、ひずみの無い良く通る声でスコールに話を促す。

「スコール、君はゲームに乗るつもりはないのだろう?」
「……はい」
「ではここで何をしていた。人を避け、隠れていたのか?」
「……いや……違います
 (本当にそうなのか……俺は……怯えているんじゃないのか……?)」
「私は、出来うる限りの人命を助けるのだと心に決めている。
 スコール、私と一緒に来ないか?」
「でも……俺の……支給品は……(あなたは立派だ……)」
スコールはデイバックの中から支給品を取り出し、パパスに見せる。
それは、大抵の鍵なら苦も無く開錠できる『魔法のカギ』だった。
「だから、行けません……(身動きがとれないんだ……)」

バシン!!

突然。ノーモーション。
パパスは遠慮なくスコールの横面を張った。

スコールは倒れこみ、パパスを見上げる。
「スコール。私はお前を打ったのではない。お前の弱い心を打ったのだ」
パパスは父親が子供に諭すような優しい眼差しで、スコールを諭した。
頬肉に腫れ。頬骨に鈍痛。
にもかかわらず、スコールはその衝撃を心地よいと感じていた。

スコールは痺れる頭で思う。
パパスは、今まであったどのような大人とも違う。
強いてあげるなら―――古く、強烈な父性のイメージ。
彼が本の中でしか知らない、強引で、熱く、自信に満ち、責任感溢れる大人。
この瞬間、スコールの心に、この器の大きな男に対する憧れが芽生えた。
多分にペシミストな彼にしては、とても珍しいことだった。

「わかってくれたようだな」
「……はい。(この人に出会えた俺は……運がいい……)」
パパスはスコールに手を差し伸べ、立ち上がらせる。肉厚の逞しい掌だった。
「さて、こうしている間にも、誰かが助けを求めているやも知れぬ。
 先を急ぐぞ、スコール」
「はい。(俺は、変われる……この人についてゆけば、きっと……)」
2人は固く握手を交わし、お互いのバックを背負った。

「ところで……パパスさんの武器は?」
パパスは腰に提げた布袋から、流線型、木製の小さな容器を取り出す。
「容器の上の楕円は回転する。容器の下に鼻を近づけ、少し回してみるといい」
スコールは言われたとおりにした。
ごり、と何かが挽かれたような音がした。そして。

「ふぁっ……ふぁっ……(なんだ!?鼻が……ムズムズ……)
 ふあっくしょんっっ!!」

パパスはスコールの大きなくしゃみにはっはっはと笑う。
「どうだ、黒胡椒の香りは」


【パパス/スコール 所持品:魔法のカギ 黒胡椒 現在位置:J-06 星降る丘 行動方針:人命救助 】
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